ずばあん物語集

ずばあんです。作品の感想や悩みの解決法などを書きます。

【読書感想】「桐島、部活やめるってよ」

みなさまこんにちは、ずばあんです。

 

今回は朝井リョウさんの「桐島、部活やめるってよ」の感想をお伝えいたします。

 

【内容説明】

 

この「桐島、部活やめるってよ」は2010年に発表された朝井リョウさんのデビュー作です。この当時、朝井さんは大学在学中で集英社小説すばる新人賞を獲得いたしました。

 

さてこの作品の内容ですが、タイトルの通り桐島が主将を努めていたバレーボールをやめるところを中心に周囲の人物の変化や心情などを描きます。

物語の構成は桐島の周囲の5人の人物の語りによって描かれます。それぞれの話者は立場も異なりスクールカーストを意識する部分もあります。そして各話者はそれぞれ異なる目標や悩みを抱え、桐島がやめた件に関してもそれぞれ異なる捉え方をしております。

 

さてこの作品ですが、肝心の桐島の語りはありません。桐島は5人の各話者の発言によってその人物像が描かれております。しかしそれ以外で桐島について述べられておりません。

 

かなりトリッキーな作品です。桐島が何を考えてバレーボール部をやめたのかは直接述べられてないのです。回りの人間が語る人物像からそれを予測するほか無いのです。

 

 

【感想】

 

 

この本を読んだ感想ですが、5人の人物の語る各人の意識や悩みがズシッとくるくらい重く感じられました。

とある人の視点はずばあんも高校生の時分に感じたことに近くて、共感を覚えました。またとある人は、とてつもなく重い悩みを抱えていて、私は思わず目頭が熱くなりました。そしてまた別の人は、一見ずばあんとは違うタイプの人だなと思いながらも、その人なりに気楽とは言えない悩みを抱えているのだなと思いました。

 

結局質の差はあれど、誰もがそれぞれ悩み、苦しみ、そして喜ぶというそれぞれかけがえのない人生があるのです。5人はそれぞれそういう人物でした。そして同様に桐島もそういう人生を抱えているのです。

 

この作品は桐島の本音や、意見というのは記されていません。あくまで周囲の人間しか出てきません。しかし、だからこそ桐島という人間がかえってリアルに感じられるのです。なぜなら本来「私たち」は桐島ではなくこの5人のうちのひとりだからです。桐島を見る誰かではあるものの桐島本人にはなれないのです

 

桐島、部活やめるってよ」というタイトルから、桐島が何かしらの悩みを抱えていることは確かなのです。しかし、桐島が腹の底で何を考えているのかは他人には分からないのです。

 

この作品は何か悩みや苦しみを抱えている人がいても、その奥底に何があるのかを本人以外は分からないということを示しているのです。5人の語り手の話を聞いて、中には助けられるものなら助けたいと思った人もいました。しかし、その人は本来は「桐島」同様に、私たちから見て本当の気持ちが見えない人の一人なのです。

 

あくまでこの作品はフィクションですが、他人が何を考えて悩み苦しんでいるのか分からないのはリアルと同じです。私の回りにもこの5人、そして「桐島」はいるかもしれません。

 

 

【最後に】

 

 

この本を読んで、やはり人の悩みや苦しみを手に取り分かるというのは幻想なのだなと思いました。しかし、自分も逆に悩みや苦しみを人に分かってもらえないひとりでもあるのです。つまり、私は「桐島」のひとりなのです。同様にほかの人も「桐島」なのです。

 

だからこそ私はひとりの「桐島」として、他の「桐島」のような人が悩みを打ち明かせるように、あるいは悩みを解きほぐせるように常に優しく話を聞ける人間でありたいと思いました。

 

本日も最後までありがとうございました。

 

2021年2月24日