ずばあんです。お久し振りです。
本日は現在ちまたを賑わせる「陰謀論」について述べます。
新型コロナウイルスのワクチン接種が進んでおりますが、そのワクチンについて様々な陰謀論が起きております。「ワクチンを接種すると病気で死ぬ」「ワクチンの効果はない」「コロナ禍は国家や財界によるデマ」など様々な真偽不明の陰謀論が起こっております。
少し前ですと、Qアノンと呼ばれる人々による陰謀論騒ぎが問題になりました。Qアノンとは、アメリカのインターネット掲示板「4 chan」に現れた「Q」と呼ばれるユーザーが発信する情報を信じる人々のことです。「Q」はアメリカにおける児童売春などの犯罪や工作活動に関わる裏の組織として「ディープ・ステイト(DS)」(*)の存在をほのめかし、DSにはアメリカ民主党の議員やユダヤ系財閥が関与すると述べております。そしてDSを倒すための光の戦士がドナルド・トランプ氏であると述べております。
(*「ディープステート(闇の政府)」とは元はトルコ等の国の内政で軍部や官僚等による非公式な連帯・グループが事実上の実権を握っている状態を示す言葉でした。現在のアメリカなどの陰謀論者の間ではこの言葉は社会や世界全体に暗躍する悪の連帯というニュアンスで使われます。)
このQの主張は根拠不詳の陰謀論であり、情報の裏付けが乏しく、矛盾点が数多く挙げられております。それにQが何者であるかは明らかにされず、同一人物か複数人かも分かりません。また「模倣犯」がいるか否かも明らかにされていません。Qアノンはこの正体不明のQによる真偽不詳の情報に振り回されている状況です。
Qの主張を信じるQアノンは、心の中の信条にとどまらずデモ活動等の行動に及ぶこともあります。そして時には陰謀論を信じたQアノンが店舗襲撃などの過激な行動に及ぶこともありました。先ほどのQの主張からQアノンはドナルド・トランプ氏を熱烈に支持し、トランプ氏が大統領であったときにはそれに強く信託したのです。そして2020年11月の大統領選挙でトランプ氏がジョー・バイデン氏に破れると、Qアノンはトランプ氏の続投と不正選挙の可能性を訴えました。そして2021年1月にはQアノン等のトランプ支持者は首都ワシントンD.C.の国会議事堂を襲撃し、襲撃者や警察官に死者が出ました。
このように信じる人を振り回し死におとしめることもある陰謀論ですが、これを信じる人のことをただの不勉強で非論理的な人間と切り捨てることにも疑問があります。なぜなら陰謀論を信じるメカニズムには誰もが平等に嵌まる機会があり、それはまさしく「論理的な」裏付けがあるからです。
【科学的な情報を正しく読み取れてるのか】
新型コロナウイルスワクチンの接種は各国で進み、日本でも段階的に接種が進んでおります。しかしながら、ワクチン接種の効果に関して疑問視する動きがあります。
ネット上などではワクチン接種の効果を否定し、逆にワクチン接種事故の危険性を強調しワクチンの接種拒否を唱える陰謀論が出てきました。その陰謀論の中にはコロナ禍自体を政府や業界によるデマだと断じ、ただの風邪だとする論もありました。(そのただの風邪でも死亡するリスクは十分にあると思うのですが)
そのような陰謀論が生まれる理由は科学的リテラシーが乏しいことにあると思います。科学的リテラシーとは、科学的な情報・データの意義を歪みや脚色なく解釈する能力のことです。もしそこにあらぬ意図や価値観が混ざるのであれば科学的リテラシーは不十分であると言えます。
今回のコロナ禍を見ると、新型コロナウイルス(Covid-19)の危険な所は感染者に突然症状が発生し、後遺症や死亡の可能性が高いところにあります。これまで無かった病気であるゆえに対応策が限られている点が上げられます。既往症のある方や高齢者にとっては特にそうであるといえますし、人の間で伝わる感染症である点から自分さえよければは通じません。だから「ただの風邪」という言い分は適切ではないのです。
ワクチン接種についてもその効果や事故を疑う陰謀論があります。ワクチン接種の効果については、新型コロナの場合は95%とされています。これはワクチンを接種しない場合と比較してワクチン接種後は新型コロナ感染症の発症者数を95%減らせたという意味です。
この95%という数字を見て「まだ5%もかかるのか」と思う人もいらっしゃいます。しかし普段から行われているインフルエンザのワクチン接種の効果は97%といわれており、2%程の差となっております。この事から見て新型コロナのワクチンを打つことは合理的と言えます。
またコロナのワクチンを打つことにより循環器の異常などの病気が発生するという噂がいわれております。しかしこの事についても明確な因果関係は存在せず、むしろそれをセンセーショナルに報道、拡散し受容するという情報伝達の問題として考えられます。後から詳しく話しますが、人はいい情報よりも悪い情報に敏感であるという習性があるのでそれも科学的リテラシーを歪める要素として考えていいでしょう。
それに仮に接種後に異常が起きたときには医療機関からの情報や指示、処置に委ねる方が「まし」なのです。それで批難を受ける方が逆におかしいのですから、接種はした方がいいのです。
その科学的リテラシーを養うには普段から情報を仕入れることです。特に情報の出所が明らかであり、いざというときに責任を問える所からの情報は信頼できます。(新聞社や放送局、出版社など)その中でも過激で注目を集めようとする大袈裟な文言を多用する記事は避け、常識的でよく言われていることに則った記事を信用した方がいいです。今はネット時代ですので複数の情報源から情報を仕入れ同じニュースの真偽をチェックすることも大切です。
【科学だけで十分なのか?】
科学的リテラシーを得ることは大事ですし、科学的に行動できることに越したことはないです。しかし、科学的に正しさが証明されたからといって陰謀論を信じる人は出てきます。それは何らおかしいことではありません。それは科学が私たちの悩みをいつも解決するわけではないからです。
科学は確かに私たちの生活を豊かにしてきました。一方で科学は万能ではなく有限であり、いまだに科学で説明できない事柄がたくさんあります。例えば、今回のコロナ禍が広まったメカニズムやどの様にしたらコロナ禍をおさめられるかは科学で説明できても、なぜ自分がコロナ禍に巻き込まれなくてはならないのかまでには科学は答えられないのです。
これは科学サイドからすれば科学は万能ではない、偶然の出来事だというだけの話ですが、われわれ人間からすればそれで消えるようなモヤモヤではないのです。そのため私たちは科学が答えられない所で「悪人」を探したり、原因探しをしたりするのです。
その中で発生するのが陰謀論です。陰謀論はある事柄について何者かが何かしらの陰謀により起こしたことであると述べる論です。ここでは「たまたま」という可能性は排除され、不幸や不運がわざと起こされたことと説明されます。そうすることにより理不尽でなす術がないように思えることが、理由がはっきりし打ち倒せることのように思えるからです。現実は何も変わっていないのにそれが変わったかのように思わせるのが陰謀論です。
Qアノンの発生した背景も似たようなものでした。Qアノンは格差の激しいアメリカで窮状に貧する白人貧困層から生まれたものでした。
実力主義社会のアメリカでは貧富の差が激しくなっており、富の42%程が全人口の1%のトップ富裕層より占められ、1%の富を下位50%の国民が持つという状況になっております。社会保障制度が先進国の中でも極めて手薄なアメリカではこれはより深刻な問題です。
その格差の内訳を見ると、富を持つ側は現在はITビジネスで財を成した実業家が多くなっております。彼らは全世界に開かれたIT空間で新しい可能性を開くイノベーションを目指し、旧来の価値観を打破することを指向しております。そのためこのトップ層には人種を問わず実力で競争を勝ち抜いた者が集まっております。
その一方で貧困層には、旧来の産業や価値観にしがみつき社会のIT化の潮流に取り残された保守的な白人層が含まれます。白人貧困層は元々旧来栄えていた製造業に従事し中流層だった人が多いです。しかしIT革命により社会がIT化し同時にグローバル化が進むと、アメリカの製造業は海外の人件費の安い国に工場を移転し、アメリカ国内の製造業従事者は職を失いました。そこから社会の変化に着いていけなかった保守白人層などの人々は貧困化し、この層の自殺率やセルフネグレクトの割合も上昇しました。
このIT時代に発生した新しい貧困層の保守白人貧困層は、同時に起きたグローバル化やそれに賛同するリベラル派を脅威と捉え敵視します。そして保守白人層は「白人」や「アメリカ国民」であることに強固なアイデンティティを見いだし愛国心を強く押し出すようになります。
この中で生まれたのがQとQアノンでした。彼らは保守白人層の側に立ち、彼らが考える「敵」を悪役としそれを自分達の「ヒーロー」が打破するという物語を描きました。このヒーローがドナルド・トランプ氏でした。トランプ氏は不動産で財を成した白人富豪ですが、自身の政治的スタンスは強固な保守で愛国的で白人至上主義であり、Qアノンらにとっては自分達の立場を代弁するヒーローのようなものでした。そして2016年のアメリカ大統領選挙では民主党のヒラリー・クリントン氏を破りトランプ氏が大統領となりました。
その後のQアノンはトランプ大統領の支持基盤として存在感を強め、2019年に大規模な児童売春事件である「エプスタイン事件」の発覚でQアノンの信憑性を強めることとなりました。
しかしその後全世界的な新型コロナウイルス感染症の蔓延で、アメリカも大きな被害を受けました。その中でQアノンは、新型コロナは闇の組織のデマであるという陰謀論を主張し、マスク着用や店舗の自粛といった感染対策をしない動きが見られました。これにトランプ氏本人も同調しましたが、その後新型コロナを発症し陰謀論は説得力を失いました。
その後トランプ氏はバイデン氏に大統領選挙で破れ、その後はトランプ氏やQアノンの敗北宣言の拒否から国会議事堂襲撃事件の悲劇へと至りました。
このQアノンの陰謀論は現実の社会変動を曲解したものであり現実にとれたであろう解決策から陰謀論信者を遠ざけたものであると言えます。それどころかむしろ信者を生かすどころか逆に生け贄にして死へと導く、潜んだ殺意を含むものでもあります。
しかしその陰謀論の源が、厳しい競争社会や信条の差が産み出す格差による貧困であることを考えるとQアノンを産み出した人々を愚者とか不勉強と断じることはできません。科学に信条を変えるだけの能力は無いからです。
そのため、陰謀論は科学の限界と併せて考えなくてはなりません。
【陰謀論者にはどうすればよいのか】
陰謀論が流行るのには即効的な解決策が無い問題で苦しむことに原因があります。希望が無い状況ではその惨めさから抜け出すために陰謀論に流れる人が多くいます。
陰謀論者は自分達を不幸の境遇から救いだしてくれる神とも言える存在を望み、それを証明し具現化しようとします。その点は間違いではないと思いますが、その願望のためなら事実を曲げて解釈しそれが反証されそうになると常軌を逸脱する暴力的な道理に反した行動をとろうとする点で危険です。
先ほどのQアノンにはキリスト教の福音派が深く関わっております。福音派はキリスト教の派閥のうち、聖書の内容を疑い無く信じる派閥で、キリスト教根本主義(ファンダメンタリズム)とも呼ばれます。
キリスト教の聖典である新約聖書では、神による世界の創造や人間の興り、教祖イエス・キリストの起こす奇跡や伝道、処刑からの復活の物語が描かれております。福音派はこれを疑い無く信じており聖書に則った教育を施し、ダーウィンの進化論等の聖書と矛盾する科学的事実を否定しております。そして彼らはこの世の所業における神の絶対的な関与を信じ、神による創造や奇跡、規律を確信しております。そのため「神からの予言」と異なることが起こるのはあり得ないとされています。
Qアノンの精神的基盤には元より信じていたこの福音派が大きく影響しており、福音派の牧師がQアノンの主張を引用することもあります。
神やイエス・キリストによる世界の創造や秩序、奇跡を疑いなく信じる考えは、Qアノンの主張への盲信や他の立場への排他性に少なからず影響を与えております。これは陰謀論を産み、陰謀論者を増やしていきその度合いを益々深める沼のような有り様です。そして理性のコントロールがきかなくなると犯罪や絶命などあらぬ方向へと暴走するのです。
ちなみにここでひとつ弁解しますと、私は福音派を否定しているのではなく、陰謀論による悲劇について語っております。福音派ならば必ずQアノンになるというわけではなく、同じく陰謀論者になるというわけではないのです。
ここまで過激に陰謀論に期待し、陰謀論に依拠する陰謀論信者の状況はどのようにしたら解決するのでしょうか。
そのヒントとなるのは遠藤周作の「深い河」(1993)です。これはヒンドゥー教の聖地ガンジス川を題材に、究極的に人々の信仰の対象となる存在を示した作品です。
ここで示される神というのは、「全てを受け止める存在」でした。これは奇跡を起こせないですし、戒律を示せないものの、全てを温かく受け入れ包み込む存在でした。それを象徴するのがガンジス川でした。本来ガンジス川はヒンドゥー教という一宗教の聖地であり、ここで沐浴すると信者は浄められあの世に行けると言われます。「深い河」ではこれを宗教などに関係なくすべての人間のいかなる気持ちをも受け入れてくれる存在として描きました。
これはQアノンの想定する神様像とは異なります。Qアノンは神様は唯一無二の真実を教え、奇跡を起こし、世の中を正す絶対者と考え、神と自分達信者の関係はそうあるべきと考えます。「神様はQアノンの敵の陰謀を警告し、Qアノンに救いの手だてを与える」というプロットをQアノンは信じます。このプロットが崩壊することはQアノンにとって精神的な危機となるのです。
「深い河」に出てくる神はそのような強い力を持っていませんし、人々は神からそのようなことを期待しておりません。しかし、神は人々の人生に目を向け、各人の愛され包摂されたいという気持ちを汲む点では何者をも凌駕しております。ここでは、何も窮状は変わらないし道筋がわからないから自分達には神様はいないのだということにはなりません。慈愛に満ちた存在としての存在を認めることで人はこの世の孤独から解放されることとなるのです。これを日本人の感覚から述べると「お天道様が見守っておられる」と表現されます。
では陰謀論者に対して具体的に何をすればいいのでしょうか。赤の他人ならまだしも、家族や友人が陰謀論にはまった時にはどうすればいいのでしょう。
陰謀論者が陰謀論にはまるのは、悩みや不安が極限にまで溜め込まれるからです。それが行き場を失った時にその解放のために陰謀論を信じるのです。その陰謀論は大抵の場合取り合ってもらえず論破や冷笑されるので、陰謀論者の人は疎外感を感じるのです。そしてそれがますます陰謀論者を陰謀論へ依存させるのです。
そのため陰謀論者となった人には、その悩みを吐き出させてあげることが解決の早道となるのです。まずは陰謀論者の話を否定せずに聞き流します。そして本人から本当の悩みが出てきたら、その悩みをしっかり聴いてあげましょう。そこで論破や説教はせず、しゃべりたいことをしゃべらせたほうがいいでしょう。
他人の悩みの聴き方については私が以前に書いた「他人に悩みを相談できない人たち」の記事で記しております。
(リンク)⇒https://zubahn.hatenablog.com/entry/2020/08/07/185459
そこからこうした方々の不安や孤独感を解消する現実的な策をとることが身近な陰謀論者
への対策となるでしょう。
【おしまいに・陰謀論とずばあん】
ここで私ずばあんは陰謀論について偉そうに長々と語りましたが、私自身も迷信ともいえる説を間違って信じていることがたまにあります。
それを信じてしまった理由を考えると、その前に何か悩みや不安事があり、その解決策を探る上で信じてしまったということが多かったです。特に政治などの話は風説の流布が多く、どれが本当なのか疑わしいことばかりです。
それがどうでもいいレベルで収まっているならばまだいいですが、生活や生命に関わるレベルまで進めばそれは有害です。
少し前ですと健康情報投稿サイトでの信憑性の薄い情報による健康被害が問題になりました。そして今はコロナ禍ですので玉石混淆の大量の情報から正しい情報を拾うことが切実な課題となっております。
また、私の回りの近しい人間でネット上での陰謀論を信じかけている人がいましたので、その人の悩みを聴いたりしたこともありました。
陰謀論はどこか遠いところの笑い話ですめばいいですが、それが私たち自身の話となると冗談ではすませられませんね。陰謀論の問題との向き合い方も考えなくてはなりませんね。
それでは最後までありがとうございます。
2021年6月24日