ずばあん物語集

ずばあんです。作品の感想や悩みの解決法などを書きます。

自衛隊という謎の組織

    こんにちは、ずばあんです。

 

    今日は国民からよく知られているようでまだまだ知られていない自衛隊について、自分の知り得た話をしたいと思います。

 

    自衛隊と言えば昨今のウクライナでの紛争や中国や北朝鮮の脅威により、日本を取り巻く国防事情の変化で存在感を増している組織です。最近は防衛費の増加を総理大臣が表明するなど、今後注視すべき組織と言えます。

 

    かたや、昨年には元陸上自衛隊員の女性が現役時代に受けたセクハラについて世間に向けて告発しました。その後自衛隊を管轄する防衛省は事案の調査に乗り出し、セクハラの事実を認め女性に謝罪し、加害者の隊員は懲戒解雇となりました。

 

    このような自衛隊及び防衛省は何のためにある組織で、どのような課題を抱えているのかを語りたいと思います。


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(防衛省)

 

 

    ① 自衛隊の概要

     

 

    自衛隊とは、主たる任務として日本の国土防衛のために存在し、その他従たる任務(災害出動等)を行うための組織です。自衛隊は現在は防衛省が管轄官庁となっており、そこで働く自衛隊員および防衛省職員は国家公務員の扱いになります。

    なお自衛隊自衛官事務官等に分けられ、自衛官は制服を着用し有事には実力行使を行いますが、事務官等は実力行使を伴わない職務(事務職、技術職、教員職など)を執り行います。   

    自衛隊はよく外国でいう軍隊になぞらえられますが、自衛隊防衛に特化した組織でありこちらが先手を打つ侵略戦争は行いません。その点が他国の軍との違いなのです。なお自衛隊文民統制(シビリアン・コントロール)という、武官(自衛官)以外の文民(日本国民)が統制を行うという原則があり、国会や内閣、防衛大臣(かつては防衛庁長官)が代表として統制を行うとされます。

    自衛隊は活動する領域の違いにより、陸上自衛隊(陸上)、海上自衛隊(海上、海中)、航空自衛隊(空中)の3つの自衛隊に分かれます。そして、政策の考案、行政の中心となる防衛省本省があり、3つの自衛隊はその下につく形になっております(詳しい解説は②自衛隊の組織で行います)。

 

    (自衛隊の歴史)

 

    自衛隊が出来る前、日本には陸軍・海軍等の日本軍が存在しました。しかし、第2次世界大戦終結(1945)後にポツダム宣言を日本が受諾したことにより日本軍は解体され、人員・装備・財産は退役、破棄されたり米軍や他の官庁に移籍、移管されたりしました。

 

    自衛隊は戦後の1950年に警察予備隊として発足しました。これは当時、日本の国土を防備していたアメリカ軍が朝鮮半島で勃発した朝鮮戦争に(国連軍として)参戦するため、その不足分の日本国土防備要員(陸上のみ)を担う組織としてGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の要請で作られた組織でした。

     後にサンフランシスコ平和条約の締結により日本の主権が回復した後は、当時海上保安庁にあった海上防衛要員を警察予備隊に移管・統合の上、1952年に保安庁・保安隊となり、1954年に防衛庁自衛隊の名前になり、同時に陸・海とは別に航空自衛隊が新たに発足しました。

    その後日本の国防を主たる任務としつつも、災害派遣や国連のPKO(平和維持活動)へ参加するなど活動の幅を広げ、2008年には管轄官庁の防衛庁防衛省に昇格しました。 

 

    そしてここ10年間はサイバー空間や宇宙空間からの攻撃に備える部隊の新設など新たなる国防上の脅威に備える戦略が取られております。また集団的自衛権(同盟国軍の有事に出動する考え)についても長年否定されてたのが、2014年に閣議によって容認されました。

 

      

自衛隊防衛省の組織

 

 

     自衛隊防衛省は多くの部隊や機関を日本全国に持っております。ここではそれらをざっくりと俯瞰するように説明したいと思います。


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(防衛省組織図:防衛省HPより)

 

(1)3自衛隊

     自衛隊という組織は活躍する場の違いで陸上海上航空の3つの自衛隊が存在しております。それぞれの自衛隊には作戦実行に必要な専門性が様々な多くの部隊機関が存在します(例:陸上自衛隊普通科連隊、自衛隊病院など)。

    3自衛隊の共同部隊・機関も存在します。部隊ではサイバー空間上での日本への攻撃に対抗するサイバー防衛隊や、自衛隊内での情報管理を司る情報保全隊があります。機関では自衛隊が設置する病院である自衛隊病院や、自衛隊での体育教育・研究に関わる自衛隊体育学校自衛隊の一般市民への渉外業務を一手に担う地方協力本部(旧:地方連絡部)があります。

    そして3自衛隊をそれぞれ指揮・統制し防衛大臣を補佐する(陸上、海上、航空)幕僚監部が存在します。幕僚監部は各自衛隊作戦の立案や指揮を行う中枢組織であり、各幕僚監部のトップは自衛官の最高位である(陸上、海上、航空)幕僚長が務めます。なお、幕僚監部はこの3つのほか、3自衛隊を越えた作戦を指揮する統合幕僚監部もありトップを統合幕僚長が務めます。すなわち自衛隊には4つの幕僚監部があるのです。

   

 

(2)防衛省自衛隊全体

 

 

     さて、防衛省全体を見ますと内閣(※)に入る防衛大臣をトップとしまして、それを中心に様々な部署・役職があります。一つ一つ解説するとそれだけで長くなるので買いつまんで話します。

(※内閣を組閣する大臣は総理大臣により国会議員や民間から選ばれます)

 

    まず先ほどの3自衛隊および共同の部隊・機関や4つの幕僚監部は防衛大臣の下にある組織です。

    そしてそれらとは別に本省内部部局と呼ばれる防衛省の政策決定の中枢たる組織が存在します。こちらは事務官が主たる組織であり、大臣官房を始め5つの部署からなります。

    その他防衛大臣の指揮下にある組織として、合議制の諮問機関である各審議会、防衛省管轄の学校である防衛大学校防衛医科大学校、研究機関である防衛研究所、各地方に置かれ政策面で地方自治体や地元住民と折衝する防衛局、外局ですが装備品の調達に関わる装備庁があります。

    防衛大臣を補佐する役職は様々ありますが、その内防衛事務次官は事務官から選び出され、これが事務官のトップとなります。

    

 

自衛隊員とは

 

 

     自衛隊(防衛省職員)とは自衛隊の職務を行う人全てを指し、皆国家公務員とされます。その為自衛隊員には様々な種類があるのです。

 

     まずは自衛官です。一般的に自衛隊員と言われますと、日々訓練を重ね一大事には素早く現場に向かい活躍する、規律正しく屈強な自衛官を思い浮かべる人が多いでしょう。25万人ほどいる自衛隊の内22万人ほどは陸・海・空の自衛官です。防衛省設置法39条によりますと、「自衛官は、命を受けて、自衛隊の隊務を行う。」とされます。すなわち自衛隊の実力行使(戦闘行為、災害派遣など)を担いそのための訓練をする役職が自衛官と言えます。なお自衛官は実力行使以外にも自衛隊防衛省のあらゆる職務に着いております。

    自衛官は規則で決められた制服を着用し、有事に備えて訓練に参加し、24時間365日体制で勤務管理され、基地や駐屯地内での居住が義務付けられる場合があります。そして自衛官は定年が54~60歳(階級により異なる)とかなり早めに設定されております。これは自衛隊の精強性を維持するためのものです。

    そんな自衛官の最大の特徴は階級が与えられることです。自衛官は作戦実行の際に指揮命令系統を定めるために階級を持ち、勤務中は階級章を制服に明示します。自衛官の階級は3自衛隊同じ構造(※)となっております。

(※ただし、階級章は陸自と空自は色以外は同じですが、海自はそれらとデザインが異なり米軍に類似したものとなります。)

    陸上自衛隊を例にとりますと、新規入隊者の最低位の2等陸士より、1等陸士、陸士長、その上に3等陸曹、2等陸曹、1等陸曹、陸曹長、准陸尉、更にその上は3等陸尉、2等陸尉、1等陸尉、3等陸佐、2等陸佐、1等陸佐、陸将補、陸将、そして最高位の「陸上幕僚長たる陸将」となります。

    上の「陸」の部分を「海」「空」に変えれば海自、空自の自衛官の階級になります。2士(2等○士)から准尉(准○尉)を曹士自衛官という現場部隊で指揮に従い動く自衛官、そして3尉(3等○尉)より上を幹部自衛官という部隊の上層部で部隊の意志決定に関わる自衛官とされます。

 

    では残りの自衛隊員は何かと言いますと、事務官技官教官になります。事務官とは自衛隊で事務に専念する役職です。技官自衛隊で技術(教育に関するものを除く)に専念する役職であり、自衛隊の施設の建設・管理や防衛装備品の調達等に関わります。教官自衛隊教育に専念し、自衛隊の学校などで学生・隊員に基礎教養や専門知識を教えます。(※)  これらは自衛官と異なり実力行使や戦闘訓練に参加することはなく、階級も持ちません。残業などの勤務管理や定年も他の省庁の国家公務員と同様にされます。これらの職務は自衛官も同じ場で同じ仕事をする場合がありますが、上のような自衛官との違いがあるのです。

(※防衛省設置法40条第1項~第3項)

    

 

自衛隊の課題

 

 

     自衛隊は現在いろんな課題があります。その中でも喫緊の課題とされる問題について語ります。

 

     まずは人手不足です。防衛省は隊務の遂行にあたり目標となる隊員の定員を定めておりますが、その充足率は現在全体で約92%です。これがここ10年の間100%を越えたことはありません。自衛隊の職務において優れた人材が必要となりますが、それを常に募集し続けなければならない状況が続いております。特に最近は新しい脅威が現れ、それに対応する能力を持つ隊員の募集・育成の必要に追われてます。この問題が解消しないことには、隊員の一人あたりの職務が増え続け、組織が崩れやすくなり、有事に柔軟に対応できなくなる場合もあるかもしれません。

 

    そして昨年も問題となったハラスメントの問題もあります。セクハラ(セクシャル・ハラスメント)やパワハラ(パワー・ハラスメント)はその代表です。

    昨年は元自衛官の女性によるセクハラ被害の告発が問題となりました。元陸上自衛官の女性は、福島県の部隊に在籍していた時に日常的に身体を触られるなどのセクハラを受け、演習中には複数の男性隊員から性的暴行を受けました。その後女性は上司にこの件について報告するも具体的な対処はされず、部隊の警務隊に申告するも加害隊員は不起訴となりました。女性は2022年6月に自衛隊を退職しYouTubeでセクハラを告発しました。防衛省が調査を行い、セクハラを認め謝罪したのはその後の事でした。

    また最近は海上幕僚監部が、海上自衛隊の部隊の海将補と1等海佐を過去の重大なパワハラを理由にそれぞれ2階級降格の処分としました。

    今年には、海上自衛隊幹部学校の1等海佐が海自OB(退職時は海将)で元上司であった人物から情報提供を求められ、その中で特定機密情報を漏洩したことから、1等海佐には懲戒免職の処分が下りました。おそらくこの様な事が起こるのは、この2名の関係性やOBも含めた国家機密保全教育の不備があると思われます。

    自衛隊は職務の性質上、男社会に近い性格になりがちであり、今でも自衛隊員の大半は男性です。とはいえ今や性別ではなく実力を重視して隊員の採用をする時代です。ハラスメントは高い能力を持つ隊員や隊の存続性を損ねる要因になりかねません。そのため隊の規律の徹底により、そうしたハラスメントを少なくし無くしていく必要があると考えます。

 

    そして何より私が気にしている課題は、国民からの自衛隊への理解の薄さであると思います。それは自衛隊のあり方への賛同の大きさという意味ではなく、自衛隊という組織に関する知識の深さの話です。同じく公安系の仕事である警察や消防と比較すればそれは雲泥の差です。

    自衛隊というものがあり、自衛隊員が任務を行っているという事が分かる人は多いでしょう。しかしながら、警察や消防と違い市民からの通報による出動は出来ないこと、海上自衛隊海上保安庁は違うこと、自衛官ではない自衛隊員のことなど、自衛隊に関する詳しい事柄について無知や誤解は珍しくありません。そして、そこに上のような不祥事が報道されれば、自衛隊のイメージは悪くなり自衛隊やそれにより担保される安全保障の価値の毀損に繋がると思われます。

    自衛隊は国家組織であり、国の治安に関わる組織なので、安易に開示できない事項が沢山あるのは仕方ありませんし、自衛隊の施設も一見して戒厳的な雰囲気があるのは否めません。しかしながら、自衛隊には広報部門や地方協力本部という渉外機関もあり、日々市民に対して情報発信などを行っております。自衛隊の基地や駐屯地の一般開放日や、艦艇見学、装備品などの展示など、市民に自衛隊を触れてもらうイベントは少なくありません。

    ただ、そもそもの自衛隊の組織の仕組みや概要、社会的な意義について語られる機会はあまりない印象があります。自衛隊は設立以来防衛戦争をした経験がありませんので、警察・消防みたいに「皆さんご存じでしょうが~」というイントロがしづらいところがあります(かといってあったらあったで悲劇ですが......)。

    そのため、自衛隊の国民へ周知には自衛隊の装備や施設のみならず、その存在意義や組織のアピールも一般人に向けて積極的に行うことが求められると思いました。それでこそ1番目の人手不足の問題の解消にも繋がるのではと思います。

 

 

 

○おしまいに......

 

 

    今回の記事は、私が最近自衛隊の方を相手に仕事をすることがあり、その上で自分で調べたり、あるいは知り合いで自衛隊に詳しい方の話から自衛隊についてまとめました。

   

    自衛隊防衛省に関するニュースはかなり沢山あり、政治や経済でもかなり重要な判断材料になると思います。

    ただ、日本においては過去の日本軍の暴走や、憲法9条との兼ね合いの問題もあり、自衛隊は知ることや存在意義を問うこともタブーとされた経緯があります。

    とはいえ、私としては何事においてもものを詳しく知ることが自分の意見の深化に重要でまた人々に保証されるべき権利だと思い、この記事をまとめました。

 

    この記事を読み、必ずしも自衛隊のあり方に賛同する必要は無いと思いますし、批判もあっていいと思います。ただ、その前提として知識を持っていることは不可欠だと思い、この記事を書いたつもりです。

 

    もし自衛隊についてもっと詳しいことを知りたければ、自衛隊について紹介する番組や本、サイト、または防衛省自衛隊が出している資料を見れば分かるかもしれません。

 

今回も最後までご覧いただき誠にありがとうございました。

 

 

2023年2月5日