ずばあん物語集

ずばあんです。作品の感想や悩みの解決法などを書きます。

【読書感想】「会計が動かす世界の歴史」

みなさまこんにちは、ずばあんです。

 

ここで質問です。みなさまは「簿記」や「会計」に興味はございますでしょうか。

 

私は実は簿記や会計に全く興味の無かった人間です。私の大学では会計や簿記に興味のある学生の人は沢山いらっしゃいました。日商簿記2級を取ろうとする人も結構いました。

しかし、私は会計に全く興味を持てず2度も会計学の単位を落としました。複雑なわりに会計の処理の目的が理解できなかったのです。会計の知識よりも、会計に興味を持った動機の方を教えていただきたいくらいでした。

 

そんな私がつい最近読んで面白いと思ったのは、「会計が動かす世界の歴史」という本でした。著者はブロガーで会計史研究家のルートポートさんです。この本を立ち読みしてチラッと見たときに面白そうだったので、全部読んでみたら最後まで楽しめる内容の詰まった本でした。

 

そして何よりも、会計に興味を持つ人の姿を手に取るように見れたことが最高のポイントでした。

そこで今回は「会計が動かす世界の歴史」の感想を述べていきます。

 

 

【内容】

 

 

「会計が動かす世界の歴史」は次のような、内容になります。

 

 

始めに、有名な偉人の話からお金簿記の話を取り上げます。

続いて、簿記が古代メソポタミア文明で文字が生まれる前に誕生したことを解説します。その後中世イタリアの共和制都市国家ベネチア複式簿記公証人制度が誕生した過程を述べます。しばらくしてイタリアの都市国家海上保険の原型が誕生したことを述べます。

このあと16世紀から18世紀にかけて、監査報告書や株主総会の誕生など、組織の外部の人が見るための会計が発達する過程を、歴史上の事件に絡めて述べております。

そして、19世紀にイギリスでの産業革命により鉄道事業が興り、それが公認会計士制度を産みさらには簿記理論が体系化されて会計学になるまでが述べられております。

最後に消費税や仮想通貨、AIについて触れ、日本経済の今後の展望を述べて本書を締めております。

 

 

このように本書は、具体的なエピソードを多用し、簿記や会計の誕生を物語形式で述べております。会計の授業や教科書では述べられない、簿記や会計を使う人の歴史がありありと描かれております。

 

簿記に欠かせないお金の歴史も詳しく述べられております。こちらは歴史を知らないひとでも楽しめます。歴史をある程度知っている人にも面白い内容です。

 

 

【感想・会計への疑問】

 

 

この本を読んで、大学時代に簿記の勉強をしているときに沸き起こった疑問や空虚感が消化されていくのを感じました。

なぜこの書表を作らなくてはいけないのか、どうしてこの項目が必要なのか、そもそも書表をどう使うべきなのか、そうした人に聞けない疑問に本書がどのように回答したかを述べながら感想を述べていきます。

 

①なぜ貸借対照表損益計算書が必要なのか

 

私が会計学を勉強していたときに、まず基礎として教わったのがこの貸借対照表損益計算書でした。この二つはそれぞれお金の出所とお金の動きの理由を表したものでした。

貸借対照表損益計算書はそれぞれ書表の左右が「借方」と「貸方」の二つに別れて記入されております。そして、この二書表の借方同士と貸方同士の和を求めると、お互いの値は一致するという仕組みになっているのです。

私がこの二書表を勉強しているときは、それぞれの別々の役目に気を取られておりました。

 

しかし、この本を読んで私は初めてこの両書表の役目を知りました。貸借対照表損益計算書は実は正確な簿記のための合い言葉だったのです。それぞれの役目よりも、それぞれの借方同士と貸方同士の和が一致することが一番重要だったのです。

 

簿記自体は古代メソポタミア文明のころから行われてきましたが、「正確な簿記」への要請は中世のベネチアから誕生したのです。これは当時共和制だったベネチアには王がおらず、商業をする上で信用を担保してくれる絶対権威たる「お上」がいなかったからです。このお上に変わって商人の信用を担保したのは数字や言葉の正しさでした。

それが中世ベネチアで正しい契約書を担保する公証人制度、そして正しい簿記を担保する複式簿記貸借対照表損益計算書を発達させたのです。

よって貸借対照表損益計算書は2つで1つの役目を果たしているのです。

 

② 沢山の種類の財務諸表ってなぜ必要?

 

さて今度はそれ以外の財務諸表がなぜ必要なのか気になります。キャッシュフロー計算書やその他諸々の財務諸表の名前は聞くのですがなぜこんなに財務諸表の数が増えていくのでしょうか。一体何のためにその財務諸表が必要なのでしょうか。

 

本の内容に戻ると、元々現代の会計の系譜は貸借対照表損益計算書に始まります。この時は自分の店の人間だけが見ることを目的とした簿記でした(日本の江戸時代の高度な帳簿もそうでした)。そこから諸々の財務諸表が作られた目的と切っ掛けは次の通りです。

 

17世紀にイギリスの貿易を一手に担うイギリス東インド会社が作られました。これは世界初の株式会社として作られましたが、世界初の株主総会もこの時行われました。この時から組織の内部情報としての簿記が、外部に向けた情報となったのです。

この時に外部の株主の関心事になったのは「今どれだけ現金があるか」なのです。これまでの貸借対照表損益計算書だけではそれが分からないので、今現金がどれだけあるかを示す「キャッシュフロー計算書」が作られたのです。ここで初めて株主向けの諸表が作られたのです。

 

また監査報告書もこの頃に作られましたか、これは「南海泡沫事件」が切っ掛けでした。この事件は18世紀のイギリスで起こった貿易会社「南海会社」による意図的な株価暴騰とそれによるバブル崩壊でした。これにより株式市場は混乱し南海の経営陣はイギリス政府により責任を問われ、世界初の監査報告書が作られたのです。

監査報告書とは会社の外部から会社の財政状況を分析評価して発表される会計報告書のことです。これは会社の社会的信用を保証するものです。

19世紀にイギリスで産業革命が起こると、この監査報告書はもっと複雑になりました。重厚長大型産業の誕生により「減価償却」の概念などが新しく生まれ、会計は専門知識となりました。これにより会計士のニーズが高まり会計士になる人が増加しました。デロイトなどの監査法人もこの頃誕生しました。

しかし、その中でモグリの会計士も増加したのでスコットランドで世界で初めて公認会計士制度が作られたのです。

 

このように組織の内部書類としての簿記から、株式会社の誕生やバブルの発生等を通じて、外部に公開する書類としての簿記に変化したのです。その過程の中で財務諸表は貸借対照表損益計算書の他にもあれだけ沢山増えたのです。株主向けの書類や他の企業向けの書類などいろんな立場に向けてそれぞれのニーズを満たした財務諸表が作られたのでした。

 

***********************************************

主な疑問は上の通りでしたが、ここまでで各財務諸表が作られた理由が分かり、スッキリした気分でした。

 

財務諸表のルーツとその発展過程は会計に最初から興味のある人に聞きづらいことでしたので、ルートポートさんのこの本はとてもありがたいものでした。

 

会計は勉強すれば面白そうで内容も濃厚なのは、実際に会計に興味のある人を見れば分かります。しかし、私自身が会計を勉強すればするほど、会計情報の意図がよく分からない部分も出てきてそれが置き去りにされる感覚があり、会計の勉強を途中で放り出してしまいました。

そのため会計学はしばらく関心の外にありましたが、この本を読んでみて会計に関心を持つ人々の気持ちが分かった気がしました。

 

 

【おしまいに】

 

 

この「会計が動かす世界の歴史」は会計との接点が薄い人が、会計への興味を深めるのにいい本であると思います。

会計学は覚える項目が沢山あり、暗記主体となります。諸表も種類が多く、用途がイメージしづらいものもあります。よって会計・簿記に取っつきにくい人もいます。

 

そんな会計・簿記を敬遠している人が、会計へ親しむためにオススメなのがこの本です。内容も物語調で会計、簿記とそれを使う人々の姿がよく分かります。

 

もし興味のあるかたはルートポートさんの「会計が動かす世界の歴史」を是非お読みください。

今回も最後までありがとうございました。

 

 

2021年2月16日