ずばあん物語集

ずばあんです。作品の感想や悩みの解決法などを書きます。

ヘイトスピーチって何が問題?

こんにちは、ずばあんです。

 

今日は「ヘイトスピーチ」の話をします。

この言葉を聞いたことがある方も沢山いらっしゃると思われますが、ヘイトスピーチとは「特定の民族や国籍などを理由にそれに属する人々を攻撃、侮辱すること」とされます。

 

昨今では日本でも在日の韓国人や朝鮮人、中国人などへのヘイトスピーチとされる事案が問題となっています。日常生活やネットでの誹謗中傷や在日外国人の排斥を主張するデモ活動とされる事案などが問題となっています。その中で訴訟に発展するケースも少なくはありません。

 

2016年には国会でヘイトスピーチ規制法が制定され官公庁はヘイトスピーチ防止の努力義務を負うことになりました。一部の地域ではヘイトスピーチに対して罰則を定める条例も定められました。

 

しかし、このヘイトスピーチの問題について分からない部分は沢山あります。そのためこれまでの知識に加えて、新たに明らかにされた部分も補いつつこの問題をまとめてみました。

 

【何故ヘイトスピーチは問題なのか】

 

そもそもヘイトスピーチは誰の何に対して害を与え問題とされるのでしょうか。

 

ヘイトスピーチアメリカで生まれた言葉です。アメリカでは1980年代より特定の民族に対する憎悪を表現する発言を「ヘイトスピーチ」と呼ぶようになり、一般的な言葉として使われ始めました。

一方で、日本ではこの言葉が使われるようになったのは2010年代に入ってからであり、この言葉が市民権を得てから10年も経っていません。きっかけは2000年代からのネット上やデモ活動などでの在日外国人への攻撃的な発言が司法や政治の場で問題になり、それが報道されたことからです。

 

では、この特定の民族に対して憎悪を示す発言は社会ではどのように解釈されるのでしょうか。

 

ヘイトスピーチとは特定の「民族」への憎悪を示す発言ですが、これが特定の「個人」へとなると話は変わります。

特定の個人への憎悪や誹謗中傷は「名誉毀損」に当たります。名誉毀損は人の名誉、すなわち人の価値を傷つけることです。この内、法的に問題となる名誉毀損人の評判やプライドを傷つけることを指します。

 

この名誉毀損への罪状は、刑法上では230条の名誉毀損と231条の侮辱罪、そして233条の信用毀損罪が存在します。民法上では、先の刑法上での各条で定められている構成要件を満たせば、名誉毀損として認められ損害賠償に問えるとされます。

 

ここまでくると、ヘイトスピーチはこれらの罪で罰することが出来そうですが、それは不可能です。なぜならヘイトスピーチは「個人」に対してではなく「民族」「出自」に対する発言だからです。例えば「在日韓国人」は特定の属性であり特定の個人ではありません。そのためこれまでの名誉毀損への罰則ではヘイトスピーチに対応できないという問題があるのです。

 

それに、こうした発言への規制は日本国憲法21条の表現の自由を考慮する必要もあるという問題もあります。これはアメリカのヘイトスピーチ問題も同様で、表現の自由を定めたアメリカ合衆国憲法修正1条に則り各地でのヘイトスピーチ規制に関わる地方公的機関の対応に違憲判決が出されております。

 

一方でヘイトスピーチにより攻撃された民族に属する人々の生業が侵されたり生活上の平穏が侵される事態が続いてきたことも事実です。それによりここ10年で各地でヘイトスピーチの被害を巡る刑事・民事訴訟が増加し頻発しました。

 

2009年には京都の朝鮮学校への街宣行為が授業妨害や脅迫行為であると問題になりました。この街宣を行った市民団体は企業や組合への脅迫等でも併せて責任を問われ、裁判所から損害賠償を命じられ、それを実行したメンバーにも刑事罰が課せられました。

また、2020年には不動産会社の社長が在日韓国人の女性従業員への出自を揶揄した暴言について、地裁で損害賠償が命じられました。これに対して被告の社長は控訴しました。

 

そうした現状からこれまで法的規制の存在しなかった日本でのヘイトスピーチへの対策のために、超党派による議員立法で2016年6月に「ヘイトスピーチ規制法」が成立しました。これにより全国の官公庁にはヘイトスピーチ規制への対応の努力義務が課されることになりました。そして川崎市など一部の自治体では条例により罰則を課す所も出てきました。

 

しかしながら、この対応についてまだまだ諸外国に比べて緩く、被害への対応も不十分という批判も聞かれます。

法務省ヘイトスピーチ相談ダイヤルには相談が相次ぎますが、ある相談者は「相手をせずに我慢してと答えられ、ヘイトスピーチ自体への対応が不十分であった。」という不満を述べました。

 

 

【何故ヘイトスピーチをするのか】

 

 

一方でヘイトスピーチをする人々はどのような理由でヘイトスピーチをするに至ったのでしょうか。

 

日本の例を見ますと、ネットの匿名掲示2ちゃんねるでは中国や韓国などの諸外国を敵視する書き込みは2000年代から既に始まっていました。その切っ掛けとして考えられるのは日本の「自虐史観」やそれに伴う諸外国との関係性を批判する書籍が1990年代に広く認知されたからと言われます。

そこから保守的な政治観や強固な愛国心を強調する言説がインターネット上に多く出回るようになり、右派政治団体の一部もネット上で言論活動を行うようになります。

 

この後2000年代後半になると、そのような保守的な言説をデモ活動として行う市民団体が生まれました。この活動は「行動する保守運動」と呼ばれました。これは、これまでメディア上の言論活動や右翼団体による抗議活動に限られていた保守派の政治活動を、革新派や左派などが従来より行っていた市民デモ行進にも拡大させようという試みでした。

 

この活動では、保守派の思想に反する発言や行為をした組織や個人に対する抗議や批判などが行われます。運動には市民団体のメンバーのほかそれに同調する人々も活動ごとに任意で参加します。

 

この行動する保守運動にインターネット上での右派政治団体の活動が合流し、この2つのシナジー効果として日本社会全体での保守世論が拡大・成熟していったのです。

しかし、この動きのなかで過激な保守主義を抱く人も現れ、その人々が在日外国人や諸外国、あるいは自分と思想を異にする人々への議論を越えた誹謗中傷を行うことが問題となりました。これが各所で対立や摩擦を起こし、日本に置けるヘイトスピーチ問題に至ったのです。

現在ではこのヘイトスピーチに疑問を持つ市民団体やそのほか組織、個人との軋轢や対立も加わり、今日に至るまで抗争や訴訟、暴力事件などが頻発しております。

 

したがって、ヘイトスピーチインターネットデモ活動をきっかけに引き起こされたものなのです。

 

 

なお、ヘイトスピーチをする人の分布ですが、評論家の古谷経衡氏の分析によりますと50~60代にやや集中しつつもどの年代にも満遍なく分布していました。これまでは若年層が多いとか、就職氷河期の人々の不満が爆発している等の説が唱えられてきましたが、この分析によるとヘイトスピーチにおいては世代論はあまり通用しないものと思われます。

 

また、ヘイトスピーチ規制条例を日本でいち早く(2014年)制定した大阪市の市長だった橋下徹氏は「□□(ヘイトスピーチを行っていた人物)は知識量は豊富ではあるがそれには偏りがある。」と述べました。これは「確証バイアス」、すなわち一個人の「合理的な判断」の基準が既に個人の主観により歪んでいることへの言及でした。

実際にヘイトスピーチを行う人々には日々勉強と知識の更新を怠らない方も少なからずおります。しかし、その情報選択や処理の基準は自身の主観で決定されており、言うなれば最初から結論が決まっているようなものなのです。

ヘイトスピーチを行う団体の発言では「警察は(某団体)の手先。(某団体)は北朝鮮のスパイ」「○○市役所は外国人に乗っ取られている」「(某企業)はテロ支援団体」などの、根拠不明・意味不詳の過激なだけの文言が度々発せられます。

それも確固たる証拠があるわけではなく、陰謀論や憶測に基づく物が多く占めています。恐らくは要素たる多くの知識はまごうなき事実なのでしょうが、それらを繋ぐ論理が主観や願望、その他諸々の思惑により客観から遠く歪められ、その集合体たる論が虚実になっているのでしょう。

 

 

【なんでもかんでもヘイトスピーチ?!】

 

 

ヘイトスピーチの問題が各所で取り上げられる中で、それに含まれないものまでヘイトスピーチとしてでっち上げられる事案が出てきました。

 

例えば、ある評論家がその立場において他国の政策を批判した時に、先方の政府機関がその発言を「ヘイトスピーチ」であると批難するケースがあります。

この場合は評論家の発言は民族や出自への誹謗中傷ではなく、政府の政策への批判です。それも正当なルールに基づく正確な発言です。よってこの発言は「ヘイトスピーチ」には当たらず、また制限されるべきものではありません。

例えば日本と国交を持つ国の政策において、貿易協定の一方的な破棄など日本の国益を左右する事案について日本の国政関係者が批判的なメッセージを出すことはヘイトスピーチには当たりません。これが認められないならば、そもそも外交自体が成立しません。また逆の場合もしかりです。よって先方政府機関の非難は、ヘイトスピーチというレッテル貼りとそれにかこつけた越権行為なのです。

 

また、団体や個人への批判も同様で、民族や出自に対する発言でもなければ、誹謗中傷でもないのです。ある個人が犯罪を犯したときにその人の批判をすることは、その人が日本人だろうが在日外国人であろうが関係なく認められるのです。また外国と関わりの深い特定の団体の税制上の扱いについて論議することも同様です。ゆえにこれもヘイトスピーチではないのです。

 

こうしたことは本来のヘイトスピーチ問題の提起を妨害し、ヘイトスピーチ防止活動で保護されるべき人々の安全を間接的に危機に貶める行為でもあります。もちろん、通常の議論自体を停滞させてしまいかねない、それこそ表現の自由を侵す行為なのです。

 

 

一方でこのような事案もありました。

ある国会議員が自身のSNSアカウントで、当時ヘイトスピーチを度々行っていた団体の代表を名指しで「存在そのものがヘイトスピーチ」「差別に寄生して生活している」と主張しました。

これに対して団体の代表はその議員に名誉毀損であるとし損害賠償を求め訴訟を起こしました。その結果、議員の発言は名誉毀損には当たらないという一審の地裁判決が出され、高裁も原告の控訴請求を棄却し地裁判決を支持し判決が確定しました。

この判決の理由は、この事案以前から当団体の代表は団体の中心的な役割を果たし団体ぐるみでヘイトスピーチ規制法に触れる発言を繰り返してきたことと、当団体の代表がその団体の活動により資金を集め営利行為を行っていたことの二点からでした。

 

このようにヘイトスピーチの真偽というのは言葉の定義に加えて、発言する人間の信用度によっても判断されることが上の訴訟の判決から分かります。

特にヘイトスピーチの法規制上の抜け穴を意識しながらヘイトスピーチを長期に渡り繰り返す人の発言は、信用度は最悪であると言えます。

この事はヘイトスピーチの定義と併せて考慮すべき点であると言えます。

 

したがって、ヘイトスピーチ問題は言葉の定義を越えて、正当な批判に対するセーフガードとして濫用される懸念があります。一方で自らのヘイトスピーチの経歴が自身の言行の信用度を貶めるという現象も起こっております。

 

 

ヘイトスピーチ勢力 vs 反ヘイトスピーチ勢力】

 

 

こうしたヘイトスピーチに対するヘイトスピーチの動きは日本で動いております。2016年のヘイトスピーチ規制法の制定やそれに基づく地方自治体の条例の制定もそうです。

ヘイトスピーチに対する抗議運動も年々激化しております。2013年にヘイトスピーチに抗議する市民団体が作られ、現在では地方支部も各地に存在します。メディアにおいてもここ十年近くでヘイトスピーチの問題は取り上げられる頻度が増えました。また政治評論家の中にもヘイトスピーチを批判する人物が思想の立ち位置に関係なく多く出てきました。

 

これまでヘイトスピーチを行ってきた団体の活動は反ヘイト勢力との終わりが見えぬ泥沼の戦いに突入しております。

 

ヘイトスピーチを行う団体の街頭演説には、反ヘイトスピーチ団体がカウンターの抗議デモを行うことが多くなりました。これにより双方の攻撃は熾烈さを極め、街頭演説の度に騒乱が起こっております。

これまで街頭演説やデモに対する苦情に対して小競り合いが起こることは珍しくありませんでしたが、今度は団体同士である以上一度騒乱が起こると長時間にわたり収拾がつかなくなっております。

 

昨年の2020年6月にはヘイトスピーチを批判した評論家の元にある団体がゲリラ街宣を行い騒動となる事案がありました。そして2020年12月にはその団体の会員と反ヘイト団体の構成員の間で暴力事件が発生し、双方が逮捕される事件が起こりました。

 

また、この団体の街頭演説中に取材をしていた新聞記者と激しい口論になることもありました。その新聞記者は自社紙面のヘイトスピーチ特集コーナーを担当していました。ヘイト勢力により、団体の運動を批判する記事を載せた新聞社やその記者への抗議街宣も度々行われ、双方の支持者を交えての騒乱は定番となりました。

 

2019年3月にはヘイト団体の集会会場が反ヘイト団体に占拠され、集会が数時間にわたり開けない状態になりました。別の当団体の集会でも、ヘイトスピーチに反対する市民が集会に乱入したこともありました。

 

またこの団体と官公庁との摩擦も以前から強く、ヘイトスピーチ規制法成立以前より団体に官公庁から警告が出ておりました。ヘイトスピーチ規制を担う法務省の職員がヘイト団体のデモ活動を調査しているときに、デモ参加者らは職員を大声で罵倒したこともあります。前述のヘイトスピーチ規制条例を敷く川崎市に対しても団体は度々抗議デモを行い、ネット上でも当市役所をめぐる陰謀論を発信しております。

2019年には愛知県での芸術祭の展示物をめぐる議論と、公費による芸術祭の支援を巡る県知事の指針の是非が問われました。知事の指針に反発したヘイト団体は、同じ愛知県で芸術展を開き、ヘイトスピーチに当たるであろう展示物の他にも先述の知事や芸術祭の代表を揶揄した作品も展示しました。

 

そうした抗争の中で特に印象深いのは、2014年10月の当時の大阪市長橋下徹氏と団体代表(当時)の対談でした。

報道陣を前に始まった対談は1分ほどで些細な言葉遣いをきっかけに激しい口論が始まり険悪ムードとなりました。一時警備班が出動した後、対談は再開しましたがお互いにつっけんどんな平行線の会話に終止し、橋下市長が開始10分程で対談を打ち切りました。団体代表はそれに憤慨し去り行く市長に暴言を吐き続けました。

私もその日のうちにこのニュースを見ましたが、ここまでの感情的な喧嘩になるとは予想だにしませんでした。

 

そしてこのあと団体代表と橋下徹氏の政党「大阪維新の会」とは今日に至るまで激しく対立することになりました。

この団体代表は2016年に政治団体を新たに創設し、地方自治体や国政の選挙に代表本人も含め候補者を送ってきております。その度に団体は他の政党や候補者を激しく攻撃する街宣を繰り返しており、デモ活動ばりの勢いを見せております。

 

このようにヘイトスピーチを行う団体と反ヘイトスピーチ団体の戦いは、インターネットやデモ活動のみならず政治の場での直接対決にも及ぶ懸念が強まっております。

 

 

【おしまいに】

 

ご覧のようにヘイトスピーチ問題は本来のヘイトスピーチのみならず、そこから枝葉の様に派生する問題も含めて一筋縄ではいかない事態を起こしております。

 

ヘイトスピーチが悪いかそうではないのかという論議よりは、それを取り巻く動き全体が厄介な状態になっているという感想です。この問題と関わらないようにしようとする人を含めて誰もが当事者になっていく、そんな印象です。

 

今回は日本でのヘイトスピーチ問題について話しましたが、ヘイトスピーチ問題の本場(?)アメリカでは、ヘイトスピーチを行う市民とそれに反発する市民との争いが日本以上に激しくなっております。ニュースやネットでも聞かれるBLM運動(Black Lives Matter)やANTIFA(反ファシズム行動)はその団体の代表格です。こちらも同様に本来のヘイトスピーチや差別問題自体を取り囲むように過激な暴行や犯罪行為などが問題となっております。

 

私は人の思想について指図できる立場ではありませんが、この記事を読んで各人ごとに色んな考え方があっていいものと思われます。

何事にも内心や選択の自由があり、そして行動の責任が問われる、それだけだと思います。

 

今日も最後までありがとうごさいました。

 

2021年1月11日